林の檜を伐採しなければならなくなった。
電動ノコギリが樹皮に食い込んで行く。
ショベルカーが唸りをあげながら大木を押し倒し、引き倒す。
檜は軋みながら倒れる。ドドンと大地を轟かせる。
人間の力では押しても引いても動かぬものを、あたかも鉄の怪獣は、大きな口を開けて挑みかかり、濃い葉の繁る枝にかぶりつき、持ち上げる。
裁断された丸太も軽々と持ち上げる。
樹齢およそ60年ほどかと思う。
父と母とが植えた。
木が幼い間は下草を刈り、下枝を切り取る作業をしていた。いつも暑い時期だった。
たまに、甘くて冷たい紅茶を作って自転車で運んだ。家から3㎞ぐらいあった。
汗を吹き出し滴らせ、土や枝葉で汚れた尻をおろして、さもおいしそうに飲んでいた姿が浮かぶ。
孫の代になったら材木として伐り出せるだろうと言っていたが、現在は、手入れもされずに育った樹齢60年ばかりの檜は価値が無いのだそうだ。
なんとか伐採の数を少なく、と望んだが、結局は30数本を伐らねばならぬこととなった。
バリバリと裂けながら倒れる木の響きは父母の悲鳴に思えた。
作業2日目―。
8時から重機が働きだした。
昨日の残りの木立をめがけて唸る、噛みつく。
昨日はしっかりと見届けようと思ったが、今日は、残りの木々が倒れるのを見ていたくはなかった。
数時間の外出から帰ってみれば、格別に背の高い一本が伐られようとするところだった。
1機がその鉄の口で大木を支え、もう1機は太いワイヤーをその口にくわえて、大木の倒れる方向を定めようとしている。
鉄の怪獣が虎視眈々と獲物を狙って見上げる中、大木の根元に電動ノコギリが食い込み、やがて地響きとともに檜の大木が倒れた。
60年かかって育った檜の30余本の木立は2日間で消えた。
鬱蒼としていた林は、やけに明るい広場となった。

切り株は寂しそうです。
景色がずいぶんと変わったことでしょうね。
今のところ想像がつきません。
この話から色々と思いだすことがある。檜の木を子供の頃40万円で売ってくれと言う話があった。当時の40万円だ。
切り取ろうとしたら木の中が枯れて空洞になっていて話はオジャンになった。父の悲しみの顔を見た。
両親が亡くなり長い間出荷していた佐渡のおけさ柿(種無し柿)を60本切り倒していただく事に
なった。たまたま定年になった親戚が剪定の練習や柿の栽培をしてみたいので切らないようにとの話になった。
その人に貸せることにした。お願いした人は数年で嫌になり放置したので果樹園はジャングルになった。
その時、切り倒しておけば果樹園は広々としているだろうと「樹齢」を読みいろいろ思い出した。当分の間、佐渡の
冬支度で帰ります。