照れば炎暑、灼熱。降れば豪雨、洪水。風は竜巻、つむじ風。
まったく、この夏の天気は激しく凄まじい。
雨の予報があったので折りたたみ傘をバッグに入れて出かけた。
大阪豊中にある民家集落博物館の南部の曲家に展示物を搬入するために。
毎年、ちょうど今頃、場所も同じ南部の曲家で、毛筆で描いた絵やことばなどを展示させてもらっている。
わたしの作品ではない。紙漉き工房どんぶりの家で月に一回、[ことば遊び]という時間を共有している人たちの作品展である。
ことば遊びといいながら、絵を描く人のほうが多い。
ヒロキさんの絵は、色も構図も力強く大胆。
ミカさんはピンクが好きで、つの字、のの字の大小、配置に、いつも一生懸命に取り組む。
セイジさんが地色を塗り、おかあさんが色と季節にあわせて童謡を書かれる。
ジュンくんはカレンダーの数字を書いたり、いろはかるたを書き写したり。
各人各様に絵の具や墨汁を筆につけて、もくもくと筆を運ぶ。
ことば遊びは?
ミカさんのおねえちゃん、ミカさんのおかあさんがもっぱらことばや文字をひとくふうされる。
おねえちゃんの手になれば、春という字はうらうらと春らしく、夏という字はカンカン照りを思わせる。
ヒロキさんのおかあさんも優しい花の絵にことばを添えられる。
サポーターのシオムラさんはいつも水彩の道具一式持参で、繊細な絵を描かれる。
月に一回のことば遊びの時間への飛び入り参加もある。アオバさん、マツモトさん、スズキさん。
参加される人も、迎え入れる人も少しもためらわず、前置きも、説明もなく、空いた椅子に座って、紙を筆を選んで描きはじめる。
どんぶりならではのざっくばらんないいところ。
さて、ここでわたしの役割は…? しばしば自問自答することがある。自答ができないままに年月がたっている。
格別の指導も何もできない。ただ、見て、感心して、賞賛しているだけである。
南部の曲家というすばらしい場所を得て、三回目の展示会になる。大きな茅葺き屋根、板敷きの部屋が展示スペース。
曲家の備品であるイーゼルを立て、作品を置いていく。
ヒロキさんの絵も、ミカさんの字も、セイジさんとおかあさんの合作も、ジュンくんのカレンダーも、この曲家の部屋に置かれるととても映える。
9月6日までの展示である。
夕方、帰宅。曇ってはいたが結局は降らず、折りたたみ傘は使わずであった。
夜、電話があった。
「だいじょうぶですか」。
今日の搬入作業でいっしょだったシオムラさんからだった。
なんのことやら…?
竜巻があったのではないですか?シオムラさんは心配げに尋ねてくださる。
よく理解をしないまま朝になった。
あちらこちらから電話、電話。
心配してくださった方々の多いのに驚いたり喜んだりであった。
わたし自身が一番状況がわかっていなかった。
それから、あれやこれやの情報を集めれば、竜巻かもしれない強風が吹き、丘の上にある温泉施設の駐車場にあった車を持ち上げ移動させ、運転席の人にけがを負わせた。ガラスが割れ、瓦が飛ばされた。
調べが進めば、I地区から丘の上の温泉を通り、Y地区へと続く線上の稲が倒れ、ビニールハウスが吹き飛ばされていた。
I地区の知人によれば、工事現場に運ぶ予定だった仮設トイレが倒れたらしい。
温泉にほど近いわが家の有り様を知っている知人友人たちが、次々と安否を尋ねてくれた。
風が通った道筋は道路を挟んで向かい側であった。
こちら側であったら、桧、桜、椿などの高い木々に囲まれた小さなわが家は、倒木に押しつぶされていたかもしれない。
今朝は朝からリリリ、ジージー、虫の声。
開けた窓を閉め戻し、一枚重ね着をした。