サカトンブリ

四国からやって来ていた妹を乗せて山里の紅葉をめぐっていた日、あちこちの田んぼから煙が立ち上っている光景にひかれて、友人の田んぼあたりへと廻ってみた。
ここでも黒豆の枯れ枝や豆殻を燃やしていた。
田んぼの残り半分ほどには杭に黒豆の枝が逆さに掛けられていた。
次々と刈り取っては、あんなふうにサカトンブリに干しておくのだと説明をしてくれた。サカトンブリということばを久しぶりに聞いた。
こどものころ、逆上がりができないとき、「 もっと思いきって足を蹴りあげて、サカトンブリになれ!」と叱咤された。最近は使うことも聞くこともなかった。
友人は数人のなかまと黒豆作りをしている。勤めを退いてからの黒豆作りである。
友人は農家の生まれだが、なかまたちは農業の経験がない。手探り、手作業での黒豆作りを始めた。
いまや、農家といえど高齢者が一人で田畑におられたり、休日ごとに大型機械で一気に作業をしている風景が多い。
友人たちは60代、まだまだ若くて元気。手作業、減農薬にこだわっての黒豆作りをここ10年間続けてきた。
炎天のもとでの草引き作業に目を回し、ふらついた日もありながら、植える時期、草を抜く日、枝豆の時期、そしていまの黒豆収穫の時期、その時期ごとに友人のもとへとなかまが集まって、合宿のような状況での作業になる。
真夏には、まだ朝飯前に作業をして昼までは休み、また夕方から作業をするなど、作業スケジュールをきちんと組み立てて取り組んでいる。
わたしもそのなかまに入れてもらったことがあったが、炎天下の草引き作業中に頭がくらくら、気分が悪くなりかけた。ただの足手まといであった。以後、お呼びはかからなくなった。
それからは、枝豆のころ、黒豆ができあがったときに譲ってもらいに行くことにしている。
12月中旬には大きな粒の上等の黒豆が手にはいる。
それにしても、サカトンブリとはおもしろいことば。これはわが地方独特のことばだろうと思ったが、ためしに広辞苑を開いてみたら、ちゃんと[ 逆とんぶり ]が出ていた。

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