朝の電車

午前7時。
田んぼの中の小さな駅。
向かい側下り線ホーム。3つつながった椅子の真ん中を空けて女子高校生が座っている。
白いブラウス、グレーのチェックのプリーツスカート、同じ学校の生徒だろう。
ひとことも話さず、ピンクのスマホ、白いスマホを左手に、同じポーズで右手の指先をス、ス、スー、スラリ、スラリ。
小さな車が上り線側の駅入り口へすべりこんで来た。
白い帽子、白いシャツ、紺の半パンツの小さな男の子と、紺のスカートの長身の女の子がホームへやって来た。
姉、弟のようだ。どちらも無言。眠いのかな~?
当駅は、始発駅から3つ目の駅である。
1つ目も、2つ目も、3つ目も、終日、駅員さんのいない無人駅である。
電車が来た。
まだまだ空席がある。
マスクをして目を閉じている人。マンガを読む人。鏡をのぞいている人。そして、多くの人が携帯に見入っている。
コソリとも話し声がしない。車輪とレールの軋む音と車内アナウンスだけが響く。
斜め前と右隣の男性は知り合いでもなさそうだが、突き合わせた膝に乗せている黒いカバンがそっくり同じ。
やや持ち馴らした風合いのカバンと、新品状態のカバンの底がくっつきそうになっている。同年代の勤め人に人気のカバンなのだろうか?
久しぶりに乗ることになった朝の電車。キョロキョロと目玉を動かしているのはわたしだけだろう。
どこかから聞こえる咳払い、クシャミも控えめで、ただ無言の人びとを乗せて電車は走る。
やがて、近くに大きな住宅地が広がる、その名も新〇〇と付けられた駅に着くと、おおぜいの人が乗り込み、たちまち座席は満席になった。
立っている人もいっぱいになったけれど、まだやはり、無言のままの人びとを乗せて、朝の電車は走る。

「朝の電車」への1件のフィードバック

  1. 一週間ほど佐渡ヶ島の空家の掃除に帰ってきました。水戸黄門が好きで録画をし帰ってから
    見ると、丹波篠山での事件でした。みのもんたも奉行役で出ていたのはいただけないのです
    が前中さんは元気かと久し振りにブログを思い出しました。朝の一コマを一筆で描いた絵の
    ような文に爽やかな気持ちになりました。

Zinitiro Shirai へ返信する コメントをキャンセル

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