夜中のヒグラシ

非常に激しい雨
猛烈な雨
氾濫の危険水位を越えた
避難指示、勧告が全国で150万人に出た
厳重な警戒を
最大級の警戒を
非常事態です      etc. etc.
テレビでラジオで、繰り返し繰り返し、台風11号の情報、映像が流れる。
ノロノロと進む台風の矢印は兵庫県を指している。ここが直撃されるのか?
8月9日、夜、木々も揺れず雨の音もしない。警報が出ていることで車も走らず、静まり返ったまま時間が過ぎる。やがて、この静けさを破って台風襲来となるのか?
真夜中にヒグラシ蝉が鳴く。
嵐の前の異常な気配に悲鳴を上げるのか?
雨戸を閉ざし、懐中電灯とラジオを枕元に置き、着の身着のまま床に就いた。
風雨の荒れ狂う夜も恐ろしいが、来る、来る、非常事態です、などという予告が繰り返されるのに、静まり返っている夜も不気味である。

林の中の家である。小屋である。
ひと抱え以上もある桧が倒れたら、小屋はペチャンコにつぶれるだろう。裏の山が土砂崩れをおこしたら、支えるものも無しに小屋は押し流されるだろう。
あれこれ思うと眠れない。
「近畿地方を暴風圏内に巻き込みながら北上中」だと言っている。
猛烈なヤツが激しくやって来るのか?いったいどれほど危険なヤツが来るのだろうか?
けれど、明け方まで、やはりあたりは静かだった。
もー、疲れた。猛烈な台風が襲ってくる前に、時々刻々の最大級の警告に、猛烈に疲れた。

朝になって、ようやく雨が強まってきた。
いっとき、激しい雨風が吹き荒れ、雷も鳴ったが、台風を待つ間の恐怖心が、いよいよまさにその時になって倍増することはなかった。
昼過ぎにはニイニイ蝉が鳴き始めた。
雨戸を開け、玄関を出て家の周りを歩いた。大きな枝が折れ、散乱している。枯れた木が車の屋根に乗っていたが、幸い傷はついていなかった。
山へと続く道は川となって勢いよく水が走っている。
最大級の厳重な警戒が呼びかけられ、もしかしたら…の覚悟もしたが、繰り返しの情報にどんどん恐怖心をあおられてくたびれ果てた。

お見舞いの電話が続いた。
隣家のことちゃんおかあさんも様子を見に来てくださった。

「夜中のヒグラシ」への1件のフィードバック

  1. 読んでるこちらも読み終わったら ”疲れた!”の気分。今、新潟市の我が家も遠くからニイニイ蝉の声がする。
    遠いのにそれでも、うるさい気分。心配、不安な時は蝉は一層その気分を掻き立てる。
    近年、新潟市には竜巻、佐渡にも爆弾低気圧の気象ニュースが多くなった。3~4年前、佐渡の空家は杉の木
    の大木が倒れ屋根を破壊した。何か地球も子供時代と違って人間に注意メッセージを送っている様だ。
    いい加減なことをすると”お仕置き”するぞ!と。
    それにしても無事何事もなくって良かった。読み終わるまでは不安が続いたが。良かった。

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