干し柿

高齢の知人は3年ほど前から都会で暮らしている。当初は山里と街とを身軽に往き来していたが、足腰が弱くなって、ふるさとへの足が遠のいた。
ときおり、ふるさとの季節便りを届けると、「帰りたいなー」という声が返ってくる。
この山里に暮らしていた頃は、毎年、数百個もの渋柿の皮を剥いて干し柿を作っていたので、マンションのベランダに一筋、干し柿の縄がさがっていれば楽しいのではないか、と十数個の渋柿を箱に詰めて送った。
半月もたって、都会のベランダの干し柿はどんな仕上がり具合だろうか、と尋ねた。
吊るすための縄も用意して、皮を剥こう、干そうと思っていたのだけれど…、干し柿は作らなかった。口ごもりながらの返事であった。
青空の下、集落を取り囲む山々にパッチワークのように広がる紅葉景色。大きな屋根の軒下に、ズラリ何連もの柿の縄を吊り下げてこそ、知人にとっての秋の風景であったのだろう。
いらぬおせっかいをしたことを悔やんでいる。

「干し柿」への1件のフィードバック

  1. パッチワークのような紅葉を目に浮かべていますよ!
    今田町は特別きれいですね!
    昨日、夫と干し柿つくり、夫は初めての経験。
    綺麗に軒下にぶら下がっています!
    田舎の景色に溶け込んでいますよ!

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