すみれ、たんぽぽ

真っ白な髪の老女が2人、大きな屋根の軒下の石段に座って握り飯を食べている。土の庭には小さなすみれやたんぽぽがびっしりと広がって、薄紫と黄色の花を咲かせている。
老女たちは、六十数年も前にこの家に生まれ、この庭で遊び、庭につながるれんげ田んぼで花を摘んでままごと遊びをし、れんげの中に寝っ転がって青い空を見上げた。
小さな小さな飛行機がキラッと輝き、一筋の白い線がやがてモクモクと雲になって薄れていくのを見ているのが好きだった。

年に2、3度、遠方から妹が泊まりがけでやって来ると生家に足が向く。
無人となっている家には立ち入れず、ただ軒下の石段に尻を下ろして握り飯をほおばる。
迫る山々は、淡い緑の若葉や赤っぽい山桜の葉がこんもりこんもりと膨らんでいる。
村の中を飛び回っているのだろうか?遠くから聞こえていた鶯の声が、すぐ近くに聞こえてはまた遠ざかる。
平日のことでもあり、道を行く人も田畑に働く人もいない。
かつて、この里の戸数が30だった頃、小学生は男女ともに1年生から6年生までそろっていた。
毎朝、公民館の前に集まって、およそ1時間歩いて登校していた。
下校時は学年ごとに連れだって、道草をしながら帰った。
学校から帰れば、庭でゴム跳び、缶けり、釘さし…。砂ぼこりを巻き上げて走り回っていた。
すみれやたんぽぽは、踏み荒らされることのない庭の片隅に咲いていた。
いま、集落の戸数は23、小学生は2人の姉妹のみ。スクールバスでの通学となっている。

「すみれ、たんぽぽ」への2件のフィードバック

  1. 最近、れんげ畑に寝転がって空を見上げる夢を時々見るんです。
    してみたいと思うことが、夢で叶えてるのかも。
    空を泳ぐ夢も見るんですよ。

  2. 集落が踏み荒らされる様に多くの人が住むのも困る。と、言う日が何時か来てくれるなら嬉しいがーー。
    地震や、災害、都市生活の破たんなどを繰り返しながら地方での生活が求められる日もあるかも?
    でも、一番幸せなことは子供時代にでもそんな生活をした経験がある人かと思う。
    都会のマンションのベランダから、淋しそうなお年寄りを見る時、子供時代、ふるさと、それも田舎の
    生活を、懐かしく思っているのか?動物園で生まれジャングルを知らない動物の様にただ、外を眺めて
    居るだけだろうか?と都会勤務で思ったことがある。

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