戸数30の集落には同姓が多かったせいか、おとなもこどもも、たいていは名前で呼ばれていた。
それも、正確に呼ばれることは少なくて、まさこはまーこちゃん、よしこはよっちゃん。ふみおはふーちゃん。
さちおもさちこもさっちゃんで、さちおは前のさっちゃんと呼ばれた。この先行き止まりの集落の前の方に家があった。
女の子の名前にはほとんど、”子”が付いていた頃のことである。
だいたいが頭の一字を伸ばしたり縮めたりであったが、なぜか、やーちゃんと呼ばれる人は、本来はただしとかただあきで、”や”という字は付いていなかったが、手紙など、弥一という宛名で届いたそうだ。
夏休みになるとやって来ていた隣家の孫娘をわたしは、ぴーこちゃんと呼んでいた。やすこであったのに、なぜ、ぴーこちゃんとなったのか?思い出せない。
父は、親戚のお爺さんをガンジーと呼んでいた。
思い浮かべれば、小柄であったがなるほど鼻が高くてエキゾチックな顔だちであった。外国航路の船員さんであったそうな。
腰を曲げ杖を突き、信玄袋を提げてヨチヨチと、日課のごとくわが家を訪れる姿は、わたしには日本の昔話の中のお爺さんのようであった。
大柄で、口達者で、いつもガンジーと入れ替わるようにスタスタとやって来ては、酒呑みだ、怠け者だと告げ口を惜しまぬ奥さんのことを、父は陰でガンババと名付けていた。
集落の中で正しく名前で呼ばれていた人は、ちょっといかめしく寄り付きがたい人であった。

和ちゃん、和ちゃん、いい感じ!
私は子が付いてないから、みすずちゃん、今でもみすずちゃん。
縮めて呼んでもらったら、親しみがあっていい感じですね。
名前で呼んだら堅苦しい感じにも聞こえますね。