木かげ

両腕をまわしても指がつなげないほどの木々の中、小さな家に暮らしている。
密生する枝葉に通り道をふさがれてか、家の中へうまい具合の風が入ってこない。戸外の木かげのほうが涼しい。
葉を揺らす風に誘われ外へ出れば、蚊に刺され、ブヨが目に入り、蟻が足を這い上る。
カサリと足元の枝が鳴れば、蛇か?と身構える。身体をきらめかせトカゲが走る。
「緑がいっぱい。うらやましいお住まいですねー」訪問客が口々に言ってくださる。こんな暮らしにあこがれます、と。
そういわれる多くの方々が蛾におびえ、クワガタにも蝉にもさわれない。
「あ、蝉がいます」と頭上の木を見上げるのはいかにも楽しげ。
立ち話をしながら、網戸にしがみついている蝉をつまんでポイと林の中へ投げ込んだら、「わっ、さすがですねー」とおっしゃった。

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