塾のような進学指導はできません、とお断りをしたうえで、小さなこどもたちといわば作文ごっこのようなことをしている。
幼稚園児だった子は、初めのころ、もの字、しの字、まの字などがひっくり返っていた。たの濁点、はの半濁点は左肩についていた。
いま、1学期が終わって、しっかりと字がかけるようになった。
1年生になってピアノを習い始めたとテキストを持って来て見せてくれる。
2年生のNちゃんは以前から書道を習っていて、筆圧もしっかりとした美しい字を書く。わたしよりも格段にうまい。
3年生の男の子たちは、最近、ユーモアたっぷり余裕のある文章も書いてくれる。気分がのれば、であるが。
Jくんは電子辞書をバッグに入れている。作文の途中で漢字がわからないときはまず、わたしに尋ねる。もしも一点一画をまちがえて教えたら申し訳なく恥ずかしいので、辞書を繰って正しい漢字を示そうとする。彼は、あっ!とばかりに電子辞書を取り出す。わたしよりも速く、正しい漢字を引き出したいらしい。彼は漢字に興味があるようで、学年で習うより以上の漢字を知っていて、作文の中にいかすことができている。
ときどき、ちょっと見にはほとんど似ているけれど、ん?何かひっかるという漢字を書く。そんなとき、恥ずかしながらわたしの方に自信がない。目の前で辞書を繰る。この先生たいしたことないなと思ったかどうか、たまに試してくるようなところがある。かわいい挑戦を受けてたっている。
3年生の男の子のおかあさんから電話があった。
「明日、誕生日なので作文が終わるころにケーキを届けます。みんなで食べましょう。このこと、こどもにはナイショです。言わないでください」
作文のチェックをしているとTくんのおかあさんがケーキを両手に掲げて来られた。
ドッキリのイベントに歓声があがった。さらにドッキリだったのは、ケーキにはわたしの名前も書いてあったこと。
電話のとき、明後日がわたしの誕生日なんですよ。ずいぶんの年の差ですけれど、なんて笑ったのだった。
それが、丸いケーキに名前が書かれるなど初めてのこと。
酒場で祝われたことはあるが、丸いケーキが目の前に置かれたことはなかった。
小さなこどもたちと、そのおかあさんたちに幸せな誕生日祝いをしていただいた。
Tくん9歳、わたし67歳。