蛇口をひねると井戸水が出てくる。ヒヤッと冷たい。
ゆであげたそうめんを井戸水でギュギュッともみ洗う。
夏休みの昼ごはんは、そうめん、ひやむぎ、畑で熟れたトマトがいつも山盛り。
青臭いというか、お日さん臭いというか、独特のにおいがするトマトが食卓にもおやつにも登場してウンザリだったな―。
ピンクや黄色、緑色の麺が数本混じっているひやむぎのときは、なんとなく楽しい。
昼ごはんのあとは家族みんなで昼寝。たぶん、どこの家でも昼寝。
踏めばギシギシ鳴り、地団駄踏めば破れそうな広―い板の間に寝っころがると、ひんやりとして気持ちがいい。
紙障子も板戸もふすまも、みんな開け放してあるから東西南北、風が吹き抜ける。
おtなたちはゆっくりと昼寝。
こどもたちは昼寝もそこそこに、誘い合わせて水遊びに出かける。ワンピースの下にはもう水着を着こんで。
畑には背の高い葵やひまわり。
ミンミン、ガシャガシャ、蝉が騒ぐ陽射しの中をゴム草履をつっかけて、砂ぼこりに足を白くさせながら、集落の入り口にあるシモノイケまで行く。
池の中、縄で囲まれた区域がある。夏休みの前に父や母がここで遊んでもよいという線引きをしてくれている。
池の畔に沿う道路からは行けない場所である。
ずうっと以前から定められている場所で、道路からは行けない場所に行くには、川を歩いて行くことになっている。
池につながる川の浅瀬を選びながら歩いて行く。
小さなカニや魚を蹴散らすようにザブザブと歩いていけば、もう足はすっかり冷えている。
池に到着。
干上がってできた砂地に服を脱ぎタオルを置いて、そそくさとラジオ体操をやり、池の中へと走り込む。
池の水は冷たくて、すぐに唇が真っ青になった。
大人が付き添うことはなかった。
唇を青ざめさせた子がいたら、上級生が声をかけて水から上がらせた。
浮き輪も持たず、水から出たり入ったりを繰り返し、また川を歩いて家へ帰る。体はすっかり冷えきっている。
あのころ、池や川が遊び場だった。学校にまだまだプールは無かった。